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東京高等裁判所 昭和45年(ネ)287号 判決

理由

請求原因第一ないし第五の事実のうち、本件土地について巣鴨信用金庫のための根抵当権設定登記と所有権移転仮登記ならびに被控訴人のための各移転登記が経由されていることは当事者間に争なく、《証拠》によれば、その余の事実を認めることができる。また請求原因第六の事実は争がない。

以上の事実関係からすれば、被控訴人は控訴人に対し、右所有権移転仮登記の本登記手続をするについて、不動産登記法第一〇五条、第一四六条第一項の規定による承諾を求めうる道理であるが、控訴人は抗弁として、被控訴人が清算義務を履行しない限り控訴人の承諾を求めえない旨主張するので、これについて判断する。

前記認定(請求原因第一)のとおり、巣鴨信用金庫と新本との代物弁済の予約は、融資契約に基づく債権の担保の目的で結ばれたものであるから、右予約上の地位を譲りうけた被控訴人が本件土地所有権の取得という方法で債権の満足をはかるに際しては、右土地の適正時価から被控訴人の優先弁済をうけるべき債権額を差引き、その残額を清算金として債務者新本に支払うことを要し、もし被控訴人の後順位債権者があるときは、新本に先んじてその者に清算金を支払うかまたは供託することを要すると解すべきである。そうして前記認定(請求原因第六)のように、控訴人も新本に対しては本件土地の交換価値からその有する債権の弁済をうける地位を保全している者であり、ただ仮差押登記の日付が巣鴨信用金庫の仮登記のそれにおくれている関係上、被控訴人の後順位債権者とみるべきものである、控訴人の抗弁の趣旨も、被控訴人が控訴人に対して控訴人の債権額相当金を支払うかまたは供託することと引換でなければ、本訴請求の承諾に応じないという趣旨と解される。よつて更に検討するに、《証拠》によると、本件土地には金又文のために昭和四二年三月一五日付で抵当権設定の仮登記があり、次いで財団法人留日韓国民補導救援協会のために同年四月一四日付右仮登記移転の登記および昭和四四年四月二八日付右仮登記の本登記がされていて、登記面上被担保債権額は八百万円、遅延損害金の利率は日歩八銭二厘と記載されていることが認められる。また成立および原本の存在に争のない甲第五号証と口頭弁論の全趣旨によると、本件土地について東京地方裁判所が前記協会の申立にもとづいて競売開始決定をし、鑑定人角崎正一が裁判所の命令で右土地の評価をしたが、その評価書には昭和四四年八月一日現在の本件土地の価額を七、三六一、二〇〇円としていることが認められ、更に《証拠》によると、右競売事件の手続は東京高等裁判所の同年一一月七日付仮処分決定をもつて停止されていることが認められる。そうするとほかに格別の証拠もない以上、本件土地の現在の価額は右鑑定人の評価額に日時の経過による値上がり分を加算した額とみるほかはなく、値上がりの幅についてはよるべき資料がないが、かりに一年間に五割もの増価があつたとしても千百万円程度にしか達しないことは明らかである。これに対し、本件土地の交換価値から分配をうけるべき債権は、被控訴人の分が元本五百万円と日歩六銭の割合による過去二年間(競売手続における配当の場合に準じて)の遅延損害金二百十九万円、前記協会の分(競売申立および競売手続停止の事実から、右協会の債権はまだ弁済されていないことが推認される。)が元本八百万円であつて、以上合計千五百十九万円は控訴人の仮差押債権に優先するから、被控訴人が本件土地の評価額から清算を履行する場合控訴人に支払うべき金銭はないことになる。したがつて控訴人としては本件承諾を拒否すべき事由を缺くわけであり、その抗弁は失当といわなければならない。

右のとおりであるから、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当で、本件控訴は理由がない。よつてこれを棄却

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